はじめに

こんにちは!今日は梅毒についてお話しします。

梅毒って昔の病期じゃないの?
そう思われる方も多いかもしれません。
しかし実は、日本国内で梅毒の患者さんが急増しているのです。
特に妊娠を考えている方や妊娠中の方には、ぜひ知っていただきたい情報です。
この記事では、梅毒とはどんな病気なのか、どんな症状があるのか、
そして妊娠中に感染するとどうなるのかを、わかりやすく解説していきます。
梅毒の基礎知識:感染経路と急増する患者数
梅毒ってどんな病気?
梅毒は「梅毒トレポネーマ」という細菌が原因で起こる感染症です。


きもちわる!!
この細菌は非常にゆっくり増えます(約30時間で2倍になる程度)。
そのため、梅毒は急激に悪化するのではなく、
じわじわと進行する慢性的な病気という特徴があります。
どうやって感染するの?
梅毒の感染経路は主に2つです。
1つ目は性的な接触による感染です。
通常の性交渉だけでなく、オーラルセックス(口を使った性行為)でも感染します。

2つ目は妊娠中のお母さんから赤ちゃんへの感染です。
これを「母子感染」と呼びます。

まれに性交渉以外の接触で感染することもありますが、
ほとんどの場合は上記の2つの経路で感染が起こります。
今、何が起きているの?〜データで見る梅毒の増加〜
国立感染症研究所という国の研究機関のデータを見てみましょう。
近年、梅毒の患者数が急激に増えています。

厚生労働省:性別にみた性感染症(STD)報告数の年次推移を参考に作成

めっちゃ増えてるやん!!
令和5年のデータでは、女性の梅毒患者さんが5,345例報告されています。
それに伴い、お母さんから赤ちゃんに感染する「先天性梅毒」も増加しています。

梅毒診療の基本知識より
先天性梅毒とは、生まれる前にお母さんから赤ちゃんに感染する梅毒のことです。
2023年には32人の赤ちゃんが先天性梅毒と診断されました。
これは決して他人事ではない数字です。
見逃しやすい梅毒の症状:時期別の特徴と注意点
梅毒の症状はなぜ見逃されやすいのか
梅毒の最も厄介な点は、症状だけで診断するのが非常に難しいことです。

なんで難しいの?
1つ目の理由は時期によって変化していきます。
さらに、治療しなくても一時的に良くなることがあり、「治ったかな」と思って放置してしまうことが多いのです。
2つ目の理由は、症状が非常に多彩であり他の病気と間違えやすい症状も多くあります。
時期によって変わる症状
梅毒は感染してからの時間によって、症状が変化していきます。
【早期梅毒・第1期】感染から1週間〜3ヶ月
細菌が最初に入り込んだ場所にしこりやただれができます。
多くの場合、口の中や陰部、肛門周辺です。

特徴的なのは、痛みがないことが多い点です。
そのため、気づかずに過ごしてしまう方もいらっしゃいます。
【早期梅毒・第2期】感染から1ヶ月〜1年
この時期になると、全身に症状が広がります。

・全身に発疹が出る(特に手のひらや足の裏に出やすい)
・リンパ節が腫れる
・発熱、頭痛、だるさを感じる
・口の中や陰部にただれや潰瘍ができる
手のひらや足の裏に発疹が出るのは、梅毒の特徴的なサインです。
この症状があったら、必ず医療機関を受診してください。
【第3期梅毒】数年後に起こる重篤な症状

治療せずに数年経つと、心臓や脳、神経に深刻な影響が出ることがあります。
脳出血や大動脈が破れるなど、命に関わる状態になることもあります。
【潜伏梅毒】症状が全くない状態
これが最も厄介なタイプです。
本人には全く症状がないのに、感染力はあります。
つまり、気づかないうちにパートナーに感染させたり、
妊娠中であれば赤ちゃんに感染させたりする可能性があるのです。
梅毒の多彩な症状 〜こんな症状があれば要注意!〜
以下のような症状がある場合、梅毒の可能性も考える必要があります。
・口の周り、陰部、肛門周辺にしこりやただれがある
・手のひらや足の裏を含む全身に発疹が出ている
・原因不明の発熱や頭痛が長引いている
・リンパ節(首や脇の下、足の付け根など)が腫れている
・長引く倦怠感や筋肉痛がある
ここで大切なポイントをお伝えします。
「かゆくないから梅毒じゃない」
「最近疲れて口内炎ができているだけ」
これは非常に危険な思い込みです。
梅毒は「偽装の達人」ともいわれ、症状は多彩で自然に消えることもあります。
梅毒の発疹は、かゆいこともあればかゆくないこともあります。
痛みも人それぞれで、痛みがあっても梅毒の可能性はあります。
実際に、陰部の潰瘍に痛みがあったため「性器ヘルペス」と間違われ、
診断が遅れた事例も報告されています。

これじゃあどのタイミングで受診したらいいのか分からないよ💦
私たちも症状から梅毒を疑うのはとても難しいんです。。。
気になる症状がある方はもちろんですが、以下のような場合も検査をおすすめします
- 性的パートナーが複数いる、または新しいパートナーができた
- 妊娠を考えている、または妊活を始める予定がある
- パートナーが梅毒検査を受けたことがない
- ご自身が過去に梅毒を含む性感染症の検査を受けたことがない
特に妊娠前の検査は、生まれてくる赤ちゃんを守るためにとても重要です。
診断・治療の重要ポイント
【診断方法】血液検査が基本です
梅毒の診断には血液検査を行います。
「STS」と「梅毒トレポネーマ抗体」という2種類の検査を行います。
STSは、梅毒による体の反応を調べる検査です。
梅毒に感染すると、体の中で「カルジオリピン」という
脂質成分に対する抗体(病原体と戦うための物質)ができます。
STS検査では、この抗体があるかどうかを調べます。
この検査は治療の効果判定にも使われ、
治療がうまくいくと数値が下がっていきます。
一方、梅毒トレポネーマ抗体検査は、
梅毒の細菌そのものに対する抗体を調べる検査です。
この2つの検査を組み合わせることで、
「今、梅毒に感染しているのか」
「過去に感染したことがあるのか」
「治療が必要なのか」を判断できます。
ただし、感染から1ヶ月以内の早い時期だと、
血液検査をしても陰性(感染していないという結果)になることがあります。
これは体内に抗体ができるまでに時間がかかるためです。
そのため、判断が難しい場合は、数週間時間をあけて再検査を行います。
パートナーが梅毒と診断されたら
パートナーが梅毒と診断された場合、
あなた自身も必ず検査を受ける必要があります。
初回の検査で陰性でも、安心してはいけません。
最後に接触した日から3ヶ月後まで陰性を確認する必要があります。
これは、感染初期は検査で検出できない期間(ウィンドウ期間)が
あるためです。
医師から「再検査が必要」と言われたら、
必ず指示通りに受診してください。
【治療方法】早期発見・早期治療で治ります
梅毒は抗菌薬(細菌を殺す薬)で治療できる病気です。
早期に発見して適切に治療すれば、完治します。
主な治療法は以下の3つです。
1. アモキシシリン(飲み薬)
1日3回、28日間服用します。
妊娠中の方にも安全に使用できる薬です。
2. ベンジルペニシリンベンザチン(注射)
早期梅毒なら1回、進行した梅毒なら週に1回を3回行います。
効果が高い治療法ですが、注射部位の痛みなどの副作用に注意が必要です。
3. ミノサイクリン(飲み薬)
1日2回、28日間服用します。
ただし、妊娠中の方には使えません。
治療開始時に知っておくべきこと
治療を始めると、「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応」という
反応が起きることがあります。
これは細菌が抗菌薬によって死滅する際に起こる反応です。
発熱や頭痛、発疹の一時的な悪化などの症状が出ます。

薬のアレルギーではありません。
事前に医師から説明を受けて、理解しておくことが大切です。
特に妊娠中の方は、この反応で子宮収縮が起こることもあります。
そのため、治療開始当日は入院して様子を見ることが安全です。
治療後も定期的な検査が必要
梅毒の治療が終わった後も、
定期的に血液検査を受けて、治療効果を確認します。
治療開始から3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後に検査を行い、
血液検査の数値が下がっているかを確認します。
また、梅毒は一度治っても再感染する可能性があります。
過去に治療した方も、定期的な検査をおすすめします。
妊娠と梅毒
妊娠中の梅毒が特に問題となる理由

梅毒に感染するといろいろな症状があることはわかったけど、
妊娠とどういう関係があるの?
妊娠中に梅毒に感染している、または感染すると、
お母さんだけでなく赤ちゃんにも大きな影響を及ぼします。
お腹の中の赤ちゃんに梅毒が感染すると、
早産や死産のリスクが高まります。
また、生まれた赤ちゃんに先天性梅毒が発症すると、
様々な健康上の問題が起こる可能性があります。
妊婦健診での梅毒検査
現在、妊娠初期の妊婦健診で梅毒の検査が必ず行われています。
これは赤ちゃんを守るためにとても重要な検査です。
ただし、妊娠初期に陰性でも安心はできません。
妊娠中の性交渉で感染する可能性があるからです。
そのため、梅毒が流行している現在では、
妊娠中期や後期にもう一度検査することも検討されています。
妊娠前の検査をおすすめする理由
産婦人科医として、私が最もおすすめしたいのは、
妊娠前に梅毒の検査を受けることです。
妊娠してから感染が分かるよりも、
妊娠前に治療を完了しておく方が、お母さんも赤ちゃんも安心です。
ブライダルチェック(結婚前の健康診断)などで、
パートナーと一緒に検査を受けることをおすすめします。

妊娠中に梅毒が見つかった場合
妊娠中に梅毒が見つかっても、
適切な治療を行えば赤ちゃんへの感染を防げる可能性があります。
日本産科婦人科学会の調査(2010〜2018年)によると、
早期梅毒をペニシリン系の薬で治療した場合、
先天性梅毒の発生率は0%だったと報告されています。
ただし、感染時期が不明な潜伏梅毒の場合は33%、
後期潜伏梅毒の場合は0%と、状態によって結果は異なります。
大切なのは、できるだけ早く治療を始めることです。
お母さん自身に症状がなくても、
梅毒と診断されたら「緊急性の高い病気」として対応する必要があります。
【先天性梅毒】赤ちゃんへの影響
お母さんから感染した赤ちゃんが発症する「先天性梅毒」には、
時期によって様々な症状が見られます。
生まれてすぐ〜2歳まで(早期先天性梅毒)

- 早産または小さめで生まれる
- 肝臓や脾臓が腫れる
- 皮膚が黄色くなったり皮疹(いろいろな出来物)がみられる
- 骨の発達異常
- 頭に水が溜まる
- 症状が全く出ないこともある(潜伏梅毒)
成長してから気づかれることも(後期先天性梅毒)

- 難聴(聞こえにくさ)
- 目の異常(視力障害など)
- 歯の形成不全(歯の形が通常と異なる)
- 知的発達の遅れ
病気がみえる vol.15 小児科(第1版)より引用
このように、赤ちゃんの一生に関わる影響が出る可能性があります。
だからこそ、お母さんの検査と治療が何よりも重要なのです。
予防のために今日からできること
定期的な検査を受けましょう
性的に活発な方は、定期的に検査を受けることをおすすめします。
症状がなくても、年に1回程度の検査が理想的です。
特に妊娠を考えている方は、妊娠前に必ず検査を受けてください。
早期発見・早期治療を心がけましょう
気になる症状があれば、早めに医療機関を受診してください。
検査で陽性と言われたら、必ず精密検査と治療を受けましょう。
自己判断で「大丈夫だろう」と放置するのは危険です。
パートナーとのコミュニケーションを大切に
お互いの健康状態について、オープンに話し合える関係を築きましょう。
一方が感染していたら、もう一方も必ず検査を受けてください。
恥ずかしがらずに、お互いの健康を守るために協力し合うことが大切です。
正しい知識を持ちましょう
梅毒について正しい知識を持つことが、予防の第一歩です。
信頼できる医療機関や公的機関の情報を参考にしてください。
インターネット上には誤った情報も多く存在します。
不安なことがあれば、必ず医師に相談してください。
まとめ:あなたと大切な人を守るために

梅毒は決して過去の病気ではありません。
今、日本で急速に増えている感染症です。

自分がなっていたらどうしよう。。。。。
怖がりすぎる必要はありません。
早期に発見して適切に治療すれば、完治する病気です。
特に妊娠を考えている方、妊娠中の方は、
ぜひ検査を受けてください。
症状がわかりにくい病気だからこそ、
症状がなくても定期的に検査を受けることが大切です。
健康診断や妊婦健診での梅毒検査を軽視せず、
もし陽性と言われたら必ず精密検査と適切な治療を受けてください。
また、以下のような症状がある場合は、
「まさか梅毒では…」と思わずに、医療機関を受診してください。

あなた自身と、あなたの大切な人、
そして未来の赤ちゃんを守るために、
梅毒について正しく知り、適切な行動をとっていきましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. 梅毒の検査はどこで受けられますか?
A. 産婦人科、内科、泌尿器科、皮膚科などで検査を受けられます。
また、保健所でも無料・匿名で検査を受けられる場合があります。
Q2. 検査費用はどのくらいかかりますか?
A. 保険診療の場合、血液検査は数千円程度です。
自費診療や保健所での検査は、施設によって異なります。
Q3. 治療期間中は性交渉を控えるべきですか?
A. はい。治療が完了して医師から許可が出るまでは、
性交渉を控えてください。パートナーへの感染を防ぐためです。
Q4. 一度治療すれば、もう梅毒にはかかりませんか?
A. いいえ。梅毒は一度治っても、再感染する可能性があります。
治療後も定期的な検査と、予防行動を心がけてください。
この記事の内容について疑問や不安がある方は、 お近くの産婦人科、内科、泌尿器科、皮膚科などを受診してご相談ください。
また、匿名での相談を希望される方は、 お住まいの地域の保健所にお問い合わせください。
最後に
最後までお読み頂き誠にありがとうございます☺
梅毒という病気について知ることは、
決して怖がるためではなく、ご自身と大切な方を守るための第一歩です。
「難しそうな医学の話も、分かりやすく説明してもらえて良かった」
そう感じていただけたなら、産婦人科医として本当に嬉しいです(*˘︶˘*).。.:*♡
これからも、誰もが理解できる言葉で、
皆さんの健康に役立つ情報をお伝えしていきます。
「こんなことも知りたい」「これって大丈夫?」
そんな疑問や不安があれば、ぜひコメントや診察でお聞かせください。
皆さんの健やかな毎日と、幸せな妊娠・出産を応援しています。
【参考文献】
・厚生労働省:性別にみた性感染症(STD)報告数の年次推移
・梅毒診療の基本知識
・病気がみえる vol.15 小児科(第1版)
・産婦人科診療ガイドライン 産科編2023


コメント