はじめに
今回は、妊娠を考えている方や妊娠しているにとって欠かせない栄養素である「葉酸」について解説します
葉酸(ビタミンB群の一種)は、すべての細胞分裂や成長に必要不可欠な水溶性ビタミンです
特に、妊娠の成立や胎盤の形成、赤ちゃんの成長に重要な役割を果たします
妊娠前から接種したほうがいいってよく聞くけどどうして?
それは、妊娠前から接種することで初期の流産や神経管閉鎖障害のリスクを減少させることができるからです
神経管閉鎖障害とは?
神経管閉鎖障害とは、脳と脊髄が形成される過程で神経管が正常に閉じないことによって引き起こされます
下の図は腰の神経管閉鎖障害(脊髄髄膜瘤といいます)の症状です
この障害は、胎児の発達に深刻な影響を及ぼし、出生後すぐに手術が必要になったり、足の運動が障害されることがあります
日本における葉酸の推奨量
北米では、1998年以降、小麦粉やシリアルに葉酸の添加が義務付けられた結果、神経管閉鎖障害が大幅に減少しました
日本では、妊娠を計画している女性や妊娠の可能性がある女性に対し1日に400μgの葉酸接種が推奨されています
妊娠の1ヶ月前から摂取を始めることが望ましいです
これは、先天異常が妊娠初期、特に最初の10週で発生することが多いためです
脳や脊髄などの中枢神経系は妊娠7週までに基盤が形成されるため、この時期に十分な葉酸が必要です
一般的に妊娠反応が陽性となるのは妊娠4〜5週ですが、この時期に葉酸を摂取していなければ遅すぎるといえます
葉酸を含む食品
どんな食べ物に葉酸はたくさん入っているの?
葉酸は、緑黄色野菜、豆類、ナッツ、全粒穀物などに豊富に含まれています
また、サプリメントからの接種も検討することが重要です
なお、大量のアルコール摂取は葉酸の吸収や代謝を妨げるため、妊娠中の飲酒は控えることおすすめします⚠️
葉酸のはたらき
近年、流産や神経管閉鎖障害といった妊娠初期の問題だけでなく、
妊娠中期や後期における胎盤の形成にも影響があることが報告されています。
次に、葉酸のはたらきについて詳しく解説していきます
上の図は葉酸の代謝経路を示しています
黄緑色で示された部分は特に重要で、葉酸は必須アミノ酸の1つであるメチオニンの代謝に欠かせない役割を果たしています
さらに、葉酸はDNAの複製や修復にも関与しており、すべての細胞の分裂や分化にとって必要な栄養素です
*「分化」とは、もともとは特徴のない細胞が、特定の機能をもつ細胞に変わるプロセスのことです(例えば、神経細胞に分化することを指します)
葉酸不足が引き起こす影響
この経路で葉酸が不足すると次のようになります
①DNAの合成が阻害される
→神経管がうまく閉じず、神経管閉鎖障害が発生します
②ホモシステインの蓄積
→胎盤がうまく形成されず、胎盤に関連する合併症を引き起こすリスクが高まります
①に関しては、上で解説したので割愛します
胎盤に関連する合併症
②の内容について詳しく解説します
ホモシステインが体内に蓄積すると、胎盤の形成が不十分になることが最近報告されています
胎盤が十分に形成されないと、妊娠高血圧腎症、低出生体重児、常位胎盤早期剥離、後期死産、早産などの「胎盤に関連する合併症」を引き起こす可能性があります
これらの合併症は母児ともに深刻な影響を及ぼすことがあります
また、胎盤に関連する合併症を経験した母親は、後に脳や心血管に関連する病気(脳梗塞や脳出血、心筋梗塞など)のリスクが高まることがあります
さらに、その子どもも成人になると心血管疾患や脳卒中、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病のリスクが増加するといわれています
このように、妊娠前から妊娠初期に葉酸を摂取することは認知されており、流産や神経管閉鎖障害の予防に役立ちますが、
最近の研究では”全妊娠期間”を通して葉酸を摂取することが胎盤に関連する合併症の発症リスクを軽減することが報告されています
現在の日本では、妊娠前の葉酸サプリメント摂取率は30〜40%、妊娠初期は70〜80%に増加します
しかし、妊娠後期になると摂取率は20〜30%に減少します
妊娠中期や後期の葉酸摂取は、小児喘息や下気道炎のリスクを高めることはありません
むしろ、産科合併症や将来の生活習慣病の発生リスクを軽減する可能性があるのです!!!
まとめ
将来妊娠を希望している女性にとって葉酸はとても大切な栄養素です
妊娠前からしっかりと葉酸を摂取し、妊娠中も最後まで継続して摂ることが大切です
葉酸を摂取しなかった場合のリスクがたくさんあることを十分わかっていただけたと思います
この記事を通じて葉酸を意識して摂る人が少しでも増えれば嬉しいです
最後までお読み頂き誠にありがとうございました(*˘︶˘*).。.:*♡
【参考文献】
・臨床婦人科産科 2022 Vol.76 No.5
・病気がみえる vol.5 小児科(第1版)
・病気がみえる vol.10 産科(第4版)
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