こんにちは!産婦人科医のずーです😊
妊娠すると、お母さんの体は赤ちゃんを育てるために大きく変化します。
「なんだか動悸がする」「すぐ息切れする」「トイレが近い」。
そんな症状を感じたことはありませんか?
実はこれらはすべて、赤ちゃんを守るための体の適応反応なんです。
今回は、妊娠中に起こる体の変化を「循環器系」「代謝系」「呼吸器・腎臓」「消化器系」の4つの観点から解説します。
仕組みを知ることで、妊娠中の不安が少しでも和らげば嬉しいです🌸
【循環器系の変化】血液量アップで赤ちゃんを守るしくみ

妊娠すると、血液の量が非妊娠時より約40〜50%増加します。
血液は、酸素や栄養を運ぶ「血漿(けっしょう)」という液体の成分と、酸素を運ぶ「赤血球」という成分でできています。
妊娠中は血漿の方が赤血球より大きく増えるため、血液が薄まったような状態になります。
これを「生理的貧血」と呼びます。病気ではなく、妊娠に伴う正常な変化です。
なぜ血液量が増えるのでしょうか。理由は主に2つあります。
1つ目は、赤ちゃんに十分な酸素と栄養を届けるためです。
2つ目は、出産時の出血に備えるためです。分娩では時に1〜2リットルもの出血が起こることがあり、あらかじめ血液量を増やして備えているのです。
あわせて、心臓が1分間に送り出す血液の量(心拍出量)も、非妊娠時より30〜50%ほど増加します。
心臓は妊娠前よりも多く働いており、動悸や息切れを感じやすくなるのはこのためです。
もし体がこの変化にうまく適応できないと、血圧が急に上がる「妊娠高血圧症候群」につながることもあります。
健診での血圧測定は、この適応がうまくいっているかを確認する大切な検査なのです。
【代謝系の変化】赤ちゃんに栄養を届けるための体のはたらき
妊娠中は、体が持つ3大栄養素(タンパク質・脂肪・炭水化物)の使い方も大きく変わります。
タンパク質は、赤ちゃんの体をつくる材料です。合成と分解の両方が活発になり、赤ちゃんの成長を支えています。
脂肪も同じように分解が進み、赤ちゃんへのエネルギー供給に使われます。
特に注目したいのが炭水化物、つまり糖分の使われ方です。
糖分は赤ちゃんにとって主要なエネルギー源のため、お母さんの体は「自分より赤ちゃんに糖分を優先して届ける」しくみを持っています。
その中心となるのが「インスリン抵抗性」です。
インスリンとは、血液中の糖分(血糖)を細胞に取り込ませて血糖値を下げるホルモンです。
妊娠中はこのインスリンが効きにくい体質に変化します。これを「インスリン抵抗性が上がる」と表現します。
その結果、お母さんの細胞は糖分を取り込みにくくなり、血液中に糖分が残りやすくなります。
血液中に糖分が多く残ることで、赤ちゃんへ糖分が届きやすくなるのです。
ただし、この変化が強く出すぎると「妊娠糖尿病」という状態になることがあります。
妊娠中期以降に行う糖負荷検査は、この変化が適切な範囲におさまっているかを確認するために行われています。
【呼吸器・腎臓の変化】酸素と老廃物の処理を支えるしくみ
妊娠中は、呼吸のしかたにも変化が起こります。
大きくなった子宮が横隔膜を押し上げるため、呼吸の中心が「胸式呼吸」に変わっていきます。
黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用により、1回の呼吸で取り込む空気の量が増え、呼吸の回数自体もやや増加します。
横隔膜が押し上げられることで、肺が広がれる余裕(機能的残気量)はかえって減ってしまいます。そのぶんを補うために、1回で取り込む空気の量を増やしているのです。
その結果、体の中の二酸化炭素の濃度がわずかに低くなります。これは赤ちゃんが出す二酸化炭素を、お母さんの血液へスムーズに受け渡すために都合の良い変化と考えられています。
この状態を「呼吸性アルカローシス」と呼びます。少し難しい言葉ですが、体が赤ちゃんのために呼吸のバランスを調整している結果であり、通常は心配のいらない変化です。
一方で、大きくなった子宮が横隔膜を押し上げるため、肺が広がりにくくなり、階段の昇り降りなどで息切れを感じやすくなります。
これは妊娠中によくみられる症状で、多くの場合心配はいりません。
腎臓にも変化が起こります。腎臓に流れる血液の量や、老廃物をこし取る力(糸球体濾過量)は、非妊娠時より約50%増加します。
ろ過される量が増えることで、本来は尿に出ないはずの糖分が少し出てしまうことがあります。これを「妊娠尿糖」と呼び、糖尿病とは別の、妊娠に特有の変化です。
そのため、妊娠中の血液検査では、老廃物の数値(クレアチニンなど)が非妊娠時より低めに出るのが正常です。
たとえば「BUN(尿素窒素)」という数値は、非妊娠時は20mg/dL程度が基準値の上限ですが、妊娠中は生理的に1桁台〜15mg/dLほどまで下がるのが普通です。
そのため、妊娠中に一見「基準値の範囲内」に見えても、実は妊娠週数のわりに数値が高めになっている「かくれ高値」の場合があり、注意深く経過をみる必要があります。
また、黄体ホルモンの作用や子宮による圧迫で尿管がゆるみやすくなり、トイレが近くなったり、尿路感染症を起こしやすくなったりすることがあります。
頻尿や残尿感が続く場合は、遠慮せずに健診で相談してくださいね。
【消化器系の変化】つわりや便秘が起こるのはなぜ?
妊娠中は、胃や腸のはたらきにも変化が起こります。
多くの方が経験するのが「つわり」です。妊娠4〜6週ごろから、食欲不振や吐き気、嘔吐といった症状が現れます。
つわりのほとんどは、妊娠16週ごろまでに自然とおさまっていきます。
まれに症状が重くなり、水分や栄養が十分にとれず体重が減ってしまう状態を「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と呼びます。
この場合は点滴などの治療が必要になることもあるため、我慢せず早めに産婦人科へ相談してください。
つわりが落ち着いたあとも、胃腸の動きそのものが低下しやすい状態が続きます。
理由は主に2つあります。1つ目は、黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用で胃や腸の筋肉がゆるみやすくなること。2つ目は、大きくなった子宮が周囲の消化管を圧迫することです。
その結果、食べたものが胃から腸へ送られるまでの時間が長くなります。
非妊娠時には食後6時間ほどで胃が空になりますが、妊娠中はそれ以上かかり、内容物が長く胃に残ることがあります。
腸の動きもゆっくりになるため、便秘に悩まされる方が多くなります。
また、胃の入り口を締めている「下部食道括約筋」という筋肉の力も弱まるため、胃酸が食道へ逆流しやすくなります。
これが、妊娠中に胸やけや「逆流性食道炎」が増える理由です。
なお、胃の中に食べ物が長く残りやすいという特徴は、手術や麻酔を受ける際にも注意が必要なポイントです。
空腹のはずの時間でも胃の中に内容物が残っていると、麻酔中に吐いたものが気管に入り「誤嚥性肺炎」を起こすリスクが高まります。手術前は、指示された時間までしっかり絶食していただくことが大切です。
まとめ:お母さんの体は赤ちゃんのために働き続けている
今回は、妊娠中に起こる体の変化を「循環器系」「代謝系」「呼吸器・腎臓」「消化器系」の4つの観点から解説しました。
血液量を増やし、糖分の使い方を変え、呼吸や腎臓、消化管のはたらきまで調整する。
お母さんの体は、赤ちゃんのために全身をあげて働き続けています。
動悸や息切れ、頻尿、つわりや便秘といった症状の多くは、この適応がうまく進んでいるサインでもあります。
とはいえ、症状が強い場合や気になることがあれば、我慢せずに健診で相談してください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました🥰
参考文献
- 日本産科婦人科学会誌59巻12号
- Critical Care Patient Safety Network「妊娠期の生理学的変化」
- 病気がみえる vol.10 産科(第4版)
- 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023
※この記事は医学的情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。体調に不安がある場合は、必ず産婦人科を受診してご相談ください。


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